日本の教会による社会問題・環境問題への取り組みの経緯
2024年、日本の司教団は『見よ、それはきわめてよかった』を発表し、インテグラル・エコロジーを追求して行くよう呼びかけました。これは、昨今の環境問題に対する意識の高まりの中で急に生まれてきたのではありません。日本のカトリック教会は、社会の福音化に取り組むにあたって、これまでいくつかの重要な段階を踏んで歩みを進めてきました。
ここ数十年の出来事を振り返ってみると、1981年に訪日し、平和への取り組みを呼びかけた教皇ヨハネ・パウロ2世にこたえ、日本の司教団は「平和旬間」を定め、1984年には「日本の教会の基本方針と優先課題」を発表します。
基本方針は以下の2つ
1. 私たちカトリック教会の一人ひとりが、宣教者として、まだキリストの食卓を囲んでいない人々に信仰の喜びを伝え、より多くの人を洗礼に導き、彼らとともに救いのみ業の協力者となる。
2. 今日の日本の社会や文化の中には、すでに福音的な芽生えもあるが、多くの人々を弱い立場に追いやり、抑圧、差別している現実もある。私たちカトリック教会の全員が、このような「小さな人々」とともに、キリストの力でこの芽生えを育て、すべての人を大切にする社会と文化に変革する福音の担い手になる。
この基本方針の実現のため、1987年と1993年に福音宣教推進全国会議(NICE)が開かれました。その過程で重要視されたことの一つは、一人ひとりの信者の「信仰と生活の遊離」、また「教会と社会の遊離」が解消されなければならないということです。NICEを経た教会は、社会とともに歩む教会、生活を通して育てられる信仰、福音宣教する小教区を目指して取り組みを進めてきました(参考:NICE資料『社会に福音を』1986年)。
司教団は1992年にすでに、真の世界平和に欠かせない環境問題に真摯に取り組む、全人類の新たな連帯に加わる必要性を確認し、社会司教委員会名で「地球は神のもの、すべての被造物のもの」を発表して、歩みをともにするよう呼びかけています。
2001年、司教団は『いのちへのまなざし』を発表し、環境問題を含めたさまざまないのちの危機にあって、すべてのいのちが大切にされる社会の建設を呼びかけました。このメッセージは2017年に大幅に改訂されましたが(『いのちへのまなざし 増補新版』として刊行)、それは16年の間にいのちの危機はその姿を変え、教会の対応もそれに合わせて変化していったからです。環境問題関連では、2015年に発表された教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』に沿った指針が改訂版に加わりました。
2016年には、司教協議会「今こそ原発の廃止を」編纂委員会が『今こそ原発の廃止を 日本のカトリック教会の問いかけ』を出版し、東日本大震災(2011年)の原発事故を受けての原発廃止を訴えています。
2019年、ますます深刻になる環境問題に日本のカトリック教会がどのように取り組んでいくべきなのかを探る検討会が司教団によって設置されました。同年訪日した教皇フランシスコは「すべてのいのちを守る」よう呼びかけ、司教団はこれにこたえて毎年9月1日から10月4日までを「すべてのいのちを守るための月間」と定めます。その後、検討会は2021年に提案書を司教総会に提出、これをもとに司教団の数名と司祭、修道者、信徒のグループで検討が続けられ、取り組みの第一ステップとして『見よ、それはきわめてよかった』が作成されました。
1984年の「日本のカトリック教会の基本方針」は2024年現在も有効です。この基本方針では環境問題について特筆されていませんが、上記のように「小さな人々」とともに、すべての人を大切にする社会と文化の実現に取り組んできた結果、環境問題への取り組みに発展してきたのです。
『見よ、それはきわめてよかった』は、『いのちへのまなざし』をはじめとする、これまで司教団が出してきた文書を受け継ぐものです。日本のカトリック教会としての環境問題に対する取り組みの方向性と理解を包括的に示す文書として、さまざまな宣教司牧の場で活用していただけたらと願っています。
「ラウダート・シ」デスク